天龍八部、全八巻読了。
 三人の主人公の因縁が入り混じって大きなお話が……なんだろう、ドタバタしてるばっかりで大きなお話って有ったような無かったような。各シーンは面白かったけど。
 段誉、喬峯に続いて六巻から登場した三人目の主人公、虚竹は少林寺の下っ端坊さんだったのだが、ひょんな事から強力な内功と絶技を身に着けてしまう。金庸作品のお約束的状況!
 その過程で虚竹はロリ婆師匠の陰謀で肉をたらふく食わされるわ美姫を抱かされるわと少林寺の戒律を悉く破る羽目になってしまう。
 それ、うらやましい状況なんじゃないの?という気もするが、虚竹はあくまで真面目で純朴なお坊さんなので、戒律を厳格に守っていただけにショックがでかい。
 ロリ婆師匠亡き後、彼女が治めていた流派そのものの後継者に祭り上げられてしまった虚竹。部下がみんな女性な上、四つ子美少女メイド剣士(メイドじゃない、侍女だ)に四六時中世話を焼かれてしまい、真面目な虚竹は大混乱。何このハーレム系ラブコメ


 一方の段誉は段誉で、心底惚れた女性、王語嫣がまた腹違いの妹でマジ親父自重しろ状態に。
 世を儚んで自暴自棄になった段誉くん、だが母の言葉に光明が!
「パパがあんまり浮気するから、頭に来たからママも浮気しちゃったわー。その時の子が貴方よ!」
 ママも自重しろ。
 浮気相手も段家の王族なので、王家唯一の男子である事は変わらないのだが、激変する状況にショックな段誉。当然だ。
 思いを寄せてくる三人の妹が軒並み他人である訳だから、後々は側室多数ルートだろうなー。王族的に考えて。


 ラブ時空の住人のよーな他二人に比べて異常にハードなのが喬峯。
 愛した少女、阿朱を自らの手で殺す事になってしまったり、義父母殺し他大量虐殺の汚名を着せられてしまったり、契丹人の国の太守に任命されてしまったり。
 最後のは良い事のようにも見えるが、そもそも漢民族の中で育った喬峯にとって敵国の貴人の地位を貰っても困るばかりな訳で。
 さらに、阿朱の妹の阿紫(やっぱり段誉の親父の隠し子)にまとわりつかれるのだが、この娘がとんでもないトラブルメーカー。
 幼児性を持ったサディストで、何かとゆーと無辜の民を殺すわ拷問するわ。毒を武器とする技を身に着けているので色々と手に負えない。
 だが喬峯は阿朱の死に際に彼女の事を頼まれているので、見捨てる訳にはいかなかったり。
 契丹漢人の板ばさみになった喬峯は、戦争を回避するために契丹の王を脅迫し、王の命ある限り戦端を開かないという誓いを立てさせる。
 数十年の平和を確立した後、王を脅迫するという大悪事のけじめをつけるべく自害する喬峯。
 他の二人の主人公がなんだかんだで幸せなのに比べて、どこまでもハード。
 そして喬峯に迷惑を掛け捲りつつも彼を慕って止まなかった阿紫は彼の遺体を抱いて断崖に身を躍らせるのだった。
 この阿紫には酷いエピソードがある。連載中に作者不在の為に一時金庸の友人が代筆をする事になった。その際、阿紫の性格が気に食わなかった友人はなんの断りもなく阿紫を失明させてしまう。
「ごめーん、あいつ気に食わないから、失明させちゃったwww」帰ってきた金庸涙目とかなんとか。
 作者代理にすら嫌われるこの根性曲がり!ヤンデレ系ヒロインの祖と言えるかもしれん。

 
 メイン三人以外に、外せない人物として慕容復がいる。
 段誉の思い人である王語嫣の従兄で、屈指の実力と博学、美貌を兼ね備えた、いわばアッパー段誉というべき青年。
 王語嫣はこの従兄にメロメロであり、振り向いてもらえない段誉は相当に無様な真似を重ね続けたりも。いわば美形ライバルキャラ。
 ライバルである以上、いつかはヒーローに敗れる訳だが彼はその凋落っぷりが酷い。
 慕容復は滅びた国家、燕の国の王族の末裔であり、祖国の復興を夢見て活動している。
 その夢のためにはどんな事でもやってしまう人だったのが運の尽き。
 某国のお姫様が婿取りしてると聞いたら、王語嫣を捨てて婿になろうとして失敗。王語嫣にも愛想を尽かされる。
 復興の力添えをしてくれると言う悪漢に媚びる為、長く連れ添った部下を殺して他の部下にも見捨てられたり。
 終いには見下しまくっていた段誉に手心を加えられて逃げ延びる始末。
 最終的に権力の夢を捨て切れなかった彼は精神を病み、自分は王だと思い込んでしまうのでした。
 献身的な侍女、阿碧に世話されつつ王様になりきって悦に入ってる様は大変痛々しく、何もこの人のシーンで物語を閉める事ないのにとか思ったりも。


 どんな話?と聞かれると一言で答えにくいけど、多くの人の生き様を楽しめる面白い娯楽小説でした。